The Transition Handbook
石油依存から地域のレジリエンスへ。Rob Hopkinsによるコミュニティ規模の変化のための手引きを、PDC受講中の学生が読んで書評にしました。
The Transition Handbookは、石油がしだいに希少になり、高価になり、見つけて採り出すことが難しくなっていく世界での解決策を扱う本です。目指す成果は、地域が主導し、地域自身がつくるエネルギー・ディセント行動計画(Energy Descent Action Plan)です。
この本は、現代の暮らしで私たちが物質的に経験することのほとんどが、安い石油によって成り立っていることを認めています。ものをつくるときも、それを運んでくるときもそうです。人類の歴史でこれまでにない規模の、不公平なグローバル化という現象を可能にしたのも、安い化石燃料でした。
とはいえ、これは暗く悲観的な本ではありません。豊かな未来への道筋という前向きな展望を示します。より地域に根ざした暮らしへ向かい、何十年も低下してきた地域のレジリエンスを回復させ、その過程そのものを楽しもうという提案です。
より地域に根ざした、エネルギー効率のよい、生産的な暮らし方へ向かうことは、選べることではありません。人類にとって避けられない方向です。Rob Hopkins、2008年
題名のとおり、この本は実用書です。展望とあわせて、地域通貨の立ち上げ方、人どうしの対立の解き方、英国をはじめ各地の地域でグループが生まれ、増えていくための助け方といった具体的な手順を示します。ここで描かれるトランジション・タウン運動は、どのようなエネルギー下降のシナリオに直面することになっても解決策を見つけられる、柔軟で全体を見渡す枠組みです。
炭素を減らすだけでなく、レジリエンスを取り戻す
レジリエンスを取り戻すことは、ピークオイル後のエネルギー下降に対処するための、この本の中心的な考えのひとつです。Hopkinsは英国のトラック運転手のストライキなどを例に挙げ、日々の実感としてはどれほど安定して見えても、今の社会基盤がいかにもろいかを示します。
持続可能性とレジリエンスを比べると、トランジションという考え方がはっきりしてきます。プラスチックやガラスや紙をリサイクルすれば持続可能性は高まるかもしれませんが、輸送が止まったときに地域が生き延びられるかどうかには、まったく効きません。輸送が止まれば、燃料や食料の配送から、ポンプ場の電気が止まった場合の水道まで、あらゆることに影響が及びます。
この本は、レジリエントな仕組みに欠かせない三つの要素を挙げています。
- 多様性
- システムの中の要素とつながりが多いほど、ほかのシステムとのつながりも含めて、小さな地域の変化が独自の実践や文化を生みます。隣り合う解決策と似てはいても、まったく同じにはなりません。
- モジュール性
- システムの各部分が、どれだけそれ自体で完結しているか、ということです。モジュール性が高いほど、金融危機や鳥インフルエンザのような一部での衝撃が、全体へ連鎖しにくくなります。
- フィードバックの近さ
- 小さくゆっくりした解決策は、システムの残りの部分に少しずつ影響し、すぐに手直しできます。グローバル化はその正反対で、遠く離れた部分どうしが、長く硬いつながりで結ばれています。
本自身のたとえは、タンクの間に仕切りのない石油タンカーです。区画がなければ積み荷全体がひとつになって揺れ動き、外から衝撃を受けなくても、一度の進路変更で船が転覆しかねません。仕切り、つまりモジュール性を加えれば、それぞれの区画が揺れを吸収し、全体へ伝えずに済みます。
トランジション・イニシアティブとは何か
この言葉はトランジション・タウンとして始まりましたが、その後、考え方は町の枠をはるかに超えて広がりました。本の中で引用されるJeremy Leggettの表現では、それは「規模を変えられる希望の小宇宙」です。この考え方をつかんでおくいちばん確かな方法は、その目的を覚えておくことです。人々が自分たちのエネルギー・ディセント行動計画をつくれるように手助けすることです。
従来の環境運動が、恐怖に訴える働きかけや抗議によって個人に焦点を当てがちなのに対して、トランジションのやり方は全体を見て、地域の手でつくられ、設計そのものが前向きです。それは四つの重要な前提の上に成り立っています。
- 避けられない低エネルギーの未来には、不意打ちを受けるより、備えて計画したほうがよい。
- 私たちには今、ピークオイルによるエネルギーの衝撃を吸収できるだけのレジリエンスがない。
- 今すぐ、しかも力を合わせて動かなければならない。
- 力を合わせれば、地球が供給できる範囲の中で、より豊かでつながりのある暮らし方をつくれる。
そこから本は、トランジションの取り組みを進めるための十二の原則を示します。オープンスペース形式の話し合いから、運営グループをつくり、同時にその解散まで計画しておくこと、年長者を敬うこと、低エネルギーの働き方が失われてしまわないよう技能を学び直すことまで含まれます。
現場では、どんな姿になるのか
いちばん分かりやすい実例のいくつかは、本そのものより、Transition Networkが運営する動画チャンネルから来ています。地域で資金を出し合って食料品店を買い取り、そこを地元生産者の販売先にする。地域が支える事業としてパン屋やカフェを営む。住民だけの出資で小さな太陽光発電所をつくる。かつて花壇だった場所や、使われていなかった場所に食べ物を植える。可能性を限るのは、ふつうの人たちの想像力と、トランジションという考え方に組み込まれた自由だけです。この本にただひとつの正解はありません。正解は、自分たちの地域で、自分たちのコミュニティが実行するものです。
同じ動画チャンネルは、うまくいかなかった例も伝えています。あるプロジェクトは、メンバーどうしの関係が壊れて終わりました。飾りようのない、悲しい話です。少なくともたいていの場面で人が協力できなければ、何ひとつ動かないという学びは、この運動をより人を中心に置く方向へ動かしました。グループがうまく協働できるよう支えること、そこが崩れれば他のすべてが崩れるという理解に立つことです。
総評
読んでいる間も読み終えたあとも、いちばん強く感じるのは、この本がパーマカルチャーそのものと同じように、ひと言でとらえにくいということです。考えてみれば当然で、Rob Hopkinsはこの本を書く前に10年間パーマカルチャーを教えていて、本の中でもパーマカルチャーが繰り返し参照されます。
成果そのものは簡単に言えます。人々がエネルギー・ディセント行動計画をつくれるように手助けすることです。それが実際にどんな形になるかは、世界各地でそれに取り組むグループの人たちの数だけ多様です。
私はこの本がとても好きですし、Rob Hopkinsが登場するThe Permaculture Podcastの回も楽しんできましたし、Transition Networkの動画もたくさん見てきました。忙しいPDCの最中に限られた時間で書評を書く立場で星の数をつけるのは正しくない気がしますが、これだけは言えます。パーマカルチャーに関心のある人、地域のつながりを立て直したい人、次に来る国内的あるいは世界的な混乱に少しでも備えたい人には、得るものがとても多い本です。
とらえどころがなく、創造的で、どこから見るかによって姿の変わるものを、この本は本当にうまく説明しています。
詳しくは Transition Networkのサイトへ。
PDCの読書リストから、さらに何冊か。
この書評はDarumaのパーマカルチャーデザインコース(PDC)の受講中に書かれたものです。ここでは書評が、受講生が読書リストと向き合う任意の方法のひとつになっています。ほかの書評を見るか、書評のもとになった書架を眺めてみてください。
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